2017/07/03 国交省/建設産業政策会議が提言まとめ/働き方改革など制度インフラ再構築

【建設工業新聞 7月 3日 1面記事掲載】

建設産業の将来展望や建設業関連制度の基本的枠組みについて検討してきた国土交通省の有識者会議「建設産業政策会議」(座長・石原邦夫東京海上日動火災保険相談役)は6月30日に第7回会議を開き、議論の成果を提言にまとめた。働き方改革、生産性向上、良質な建設サービスの提供、地域力の強化の各分野ごとに、各種「制度インフラ」の再構築を中心にした施策を盛り込んだ。4日に石井啓一国交相に提出する。

政策提言のタイトルは「建設産業政策2017+10~若い人たちに明日の建設産業を語ろう」。10年後を担う若い人たちに夢や希望を与えることができる産業であり続けるとの思いを込めた。働き方改革や生産性向上の取り組みを通じて良質なサービスを提供。安全・安心や経済成長に貢献することで国民の理解と信頼を拡大し、これを若者や女性の入職につなげる好循環の実現を目指すとした。

その上で、今後の建設産業が目指すべき方向性と、制度インフラを中心とした今後の建設産業政策を提示。産業全体で目指す方向性として、技術の進展や施工方法の多様化が見込まれる中、建設企業間や建設企業と建設関連企業との間の一層の連携により、高い生産性の下で良質な建設サービスを提供することを挙げた。

具体的な施策については、▽働き方改革▽生産性向上▽良質な建設サービスの提供▽地域力の強化-の4分類に沿って方向性を示した。

働き方改革では、長時間労働の是正や処遇の改善などを強力に推進。民間も含め発注者による適切な工期設定や、施工時期や労働の平準化などを進める必要があるとした。

建設産業が進化していくため、建設生産システム全体から個々の企業・個人の取り組みまで、あらゆるフェーズで生産性向上に向けた取り組みも求められるとし、技能労働者の多能工化や下請企業間の契約形態の再構築、ICT(情報通信技術)の活用などを打ち出した。

良質な建設サービスの提供では、「技能」や「技能労働者」の位置付けの明確化や、適正施工の確保と発注者の保護、法令違反への対応の厳格化などを盛り込んだ。

地域の守り手、地方創生の担い手としての地域建設業の持続性を確保するため、国、都道府県との連携の下、市町村など地域が一丸となった取り組みが必要だとし、地域の建設企業の経営基盤強化や、地域貢献に関する評価の拡充、地域建設業の安定的な担い手確保につながる入札契約方式などの施策を挙げた。

施策横断的に取り組むべき重要な課題として、重層下請構造の改善や、請負契約だけではないさまざまな契約の規律の再構築などを列挙。こうした課題に対し、今後継続的にさらに踏み込んだ検討を強く期待するとした。

会議終了後、根本幸典政務官は「現在だけでなく10年後も見据えて制度インフラを再構築していくために必要な政策について提言いただいた。国交省としては建設産業に携わる関係団体と連携し、有識者の知恵を借りながら、着実に取り組みを進めていきたい」との考えを示した。

主な施策は次の通り。

■働き方改革
【個々の企業に関わる施策】
▽許可に際しての労働者福祉の観点の強化
▽建設工事の適切な工期の見積もりを行う責務の明確化
▽「技能」や「技能労働者」の位置付けの明確化
【企業間や業界全体に関わる施策】
▽専門工事企業に関する企業情報の提供
▽技能労働者の能力評価基準の策定と技能・経験に応じた処遇の実現(建設キャリアアップシステムの活用)
▽建設企業間における人材の効率的な活用など労働の平準化に向けた取り組みの推進
▽一人親方への対応
▽女性の働きやすい職場環境の整備
▽建設業退職金共済制度のさらなる普及・改善
【発注者・設計者や地域などさまざまな主体との連携に関わる施策】
▽受発注者双方の責務の明確化
▽適切な工期設定などのためのガイドラインの策定
▽働き方改革について社会全体の理解を得る機運の醸成
▽教育機関、研修機関の体制確保の推進
▽施工時期の平準化の取り組みの拡大
▽働き方に関する評価の拡充

■生産性向上
【個々の企業に関わる施策】
▽営業所専任技術者要件の見直し
▽技術者配置要件の見直し
▽技能労働者の多能工化の普及
▽中小建設企業による生産性向上に向けた取り組み(設備投資など)への支援
【企業間や業界全体に関わる施策】
▽現場で「施工チーム」を形成している下請企業間の契約形態の再構築
▽ICT(情報通信技術)を活用した建設関連ビジネスの展開
▽建設工事における電子商取引の推進
【発注者・設計者や地域などさまざまな主体との連携に関わる施策】
▽受発注者双方の責務や役割の明確化
▽設計段階からの生産性向上を意識した設計
▽設計と施工の初期段階からの連携を図るためのフロントローディング(ECI方式の活用など)の推進
▽すべての建設生産プロセスでICTなどを活用するため3次元(3D)データなどのプラットフォームを整備
▽許可申請書類、経営事項審査申請書類などの簡素化・電子申請化
▽海外展開

■良質な建設サービスの提供
【個々の企業に関わる施策】
▽小規模建設工事に適用される規律の充実
▽「技能」や「技能労働者」の位置付けの明確化
【企業間や業界全体に関わる施策】
▽民間工事の発注者に向けた企業情報の提供
▽専門工事企業に関する企業情報の提供
▽技術者による適正な施工の徹底のための体制づくり
【発注者・設計者や地域などさまざまな主体との連携に関わる施策】
▽個人発注者などの保護
▽地方公共団体や個人発注者などにおける発注体制の補完
▽法令違反への対応の厳格化
▽工場製品に起因して建設生産物に不具合が生じた場合の再発防止

■地域力の強化
【個々の企業に関わる施策】
▽地域の建設企業の経営プロセスの改善
▽地域の建設企業の経営基盤強化
▽将来の建設市場に対応した制度構築など
【企業間や業界全体に関わる施策】
▽複数の建設企業などによる事業連携の促進
▽ICTを活用した建設関連ビジネスの展開
【発注者・設計者や地域などさまざまな主体との連携に関わる施策】
▽地域貢献に関する評価の拡充
▽地域建設業と市町村との連携強化
▽地域建設業の安定的な担い手確保に資する入札契約方式
▽工業高校などと連携した地域ぐるみでの担い手確保の取り組みの推進

■施策横断的に取り組むべき重要な課題
▽重層下請構造の改善
▽請負契約だけではなく建設工事の実施に関わるさまざまな契約の規律の再構築
▽個々の企業の技術力、収益力、ガバナンスの向上
▽各プレーヤー間の関係の透明性と緊張感
▽ランク分け制度など公共工事の発注の基本的枠組みの再構築

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