2009/10/21 八ッ場ダム建設中止問題/治水・利水効果めぐり対立/解決は長期化の様相も

【建設工業新聞 10月21日 記事掲載】

前原誠司国土交通相が建設中止を打ち出した八ツ場ダムをめぐり、同ダムの治水・利水効果に関する前原国交相と関係1都5県知事の見解が対立している。計画浮上から57年が経過し、当初の利水・治水の効果に疑問があるとする前原国交相に対し、1都5県の知事は19日に共同声明を発表し、データを基にダムの必要性を強調した。地元住民の生活再建策も絡み、問題解決に向けた道筋は見えていない。

知事らが事業推進を求める大きな理由が、ダム建設で下流域が受ける治水・利水の恩恵。鳩山新政権は、八ツ場ダム建設計画の契機となった1947年のカスリーン台風に対して、同ダムの治水効果はないとする国交省の流量計算を建設中止の根拠の一つにしている。ダムを建設しても利根川の水位を13センチ下げる効果しかなく、利水の効果についても、首都圏の工業用水などの利用量は近年落ち込む傾向にあり、計画策定時の想定量を下回っているからだ。

これに対し知事らは、まず治水について、国交省による過去31の洪水パターンの試算のうち29パターンで治水効果が出ていると主張する。現時点でカスリーン台風による洪水と同規模の洪水が発生した場合、埼玉県大利根町の破堤による被害想定額は34兆円に達する。利根川の堤防は過去からかさ上げを繰り返し、信頼に足る構造物ではないとも指摘する。6都県では98年以降、29カ所で漏水が発生したが、「水位が下がるだけでまったく違う」と強調する。気候変動による度重なる集中豪雨の影響も不安視する。八ツ場ダムは吾妻川流域初のダムで、既設ダムと比べ最大の集水面積と貯留容量がある。前原国交相は「ダムによらない治水」を提唱するが、埼玉県はわずか7キロのスーパー堤防の完成に1340億円を投じた過去がある。利根川の221キロをスーパー堤防で囲めば単純に4兆円かかるとの試算もある。

八ツ場ダムをめぐり、反対住民らが東京都、群馬県、茨城県に公金支出差し止めを求めた訴訟では、長期的な水需要予測の妥当性や治水効果を認める判決が相次ぎ出ている。前原国交相は中止表明後、流域都県が負担してきた事業費の返還に応じる構えをみせているが、中止理由は「公共事業の見直しの象徴」という以外、明確にしていない。

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