2009/12/7 ダムに頼らない治水、本格議論始まる/国交省有識者会議/既存ダム活用など12案

【建設工業新聞 12月7日 記事掲載】

前原誠司国土交通相が提唱する「ダムに頼らない治水」への転換に向けた議論が本格的に始まった。国交省が設置した有識者会議の初会合が3日開かれ、ダム建設を中心とした治水対策に代わる新たな対策として、既存施設の有効活用や、遊水池の整備、堤防かさ上げなど12の事例が示された。だが、これらの対策の実現性や効果については、関係者の間でも意見が分かれるところ。果たしてダムに代わる効果の高い治水対策を提案できるのか。有識者会議は10年夏の中間とりまとめを目指すが、意見集約の先行きは不透明だ。

「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(座長・中川博次京大名誉教授)の初会合で示されたダムに代わる新たな治水対策の検討項目は、▽河道の掘削▽堤防を移動して川幅を広げる引堤▽堤防のかさ上げ▽放水路▽遊水池整備▽ダム整備▽既存ダムの有効活用(貯水容量の異なる既存ダム間での容量振り替え、ダムかさ上げ)▽貯留・浸透施設整備▽森林保全▽都市計画法、建築基準法上の措置▽洪水予測▽情報提供-の12項目。

どれもが従来のダム建設と併用されてきた治水対策だ。だが、各対策の実現可能性を考えると課題も多い。例えば、引堤や堤防のかさ上げ。これらを行うには堤防幅を拡大する必要があるが、住宅が密集する都市圏では用地買収に膨大な時間と費用がかかる。八ツ場ダム(群馬県)の建設を求める埼玉県は7キロのスーパー堤防の完成に1340億円を投じた過去がある。公園や学校の校庭、ビルの地下に水をためる貯留・浸透施設は個別の調整が必要で早期の完成は望めない。仮に大規模な貯水施設や放水路を整備する場合も多くの費用と時間がかかる。遊水池も整備場所の設定や地元調整で手間取る可能性が高い。既存ダム間での容量振り替えは各地で事業化が計画されているが、山間部に相互連絡管を構築する費用は膨大で、実現までに時間もかかる。

有識者会議は10年夏の中間とりまとめを経て、最終的に11年夏をめどに提言をまとめる予定。その前段として国交省は年末の10年度予算案の公表時に建設・計画中の143ダム事業の中から再検証する対象ダムを選び、事業費を凍結するという。新たな治水対策の方向性が出る約1年半の間にも洪水が起きる可能性はある。

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