2014/7/29 建設再興-適正利潤・上/追加工事費の精算と落札率、契約上の位置付けは?

【建設工業新聞 7月 28日】

◇業界は疑問視/「応分にリスク負担」の見方も
先の国会で成立した改正公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)が6月4日に施行された。改正法の大きなポイントの一つが「発注者の責務」が明記されたことだ。発注者は公共工事を施工する建設業者が担い手を中長期的に確保・育成するための「適正な利潤」を得られるよう、予定価格を適正に定め、計画的な発注と工期設定、設計(図書)変更、請負代金の変更を適切に行うと定められた。改正法がうたう適正利潤の確保をめぐり、工事の契約や運用で指摘されている課題を探った。(「建設再興」取材班)

「条件変更の対象となるものには手間ひまがかかるものが多い。そうした追加分の費用は標準積算ではじくが、これに落札率を掛けられたらマイナス幅が広がってしまう」。ある建設会社の土木工事の作業所長は、設計変更で生じた追加工事費の精算をめぐる実態についてそう話す。

□適用の根拠□
国の機関や地方自治体など発注者によって運用状況に違いはあるが、受注者に追加工事費用を支払う際、多くの発注者は、当初工事の入札時の落札率を掛けて費用を精算している。こうした費用の精算方法に対し、建設業界にはこれまでも、「適用する根拠はどこにあるのか」と疑問視する声が少なくなかった。

公共工事では、用地取得の遅延や地質条件の変更、発注者による工事の追加など、受注者の責任ではない要因によって新たな費用が発生することは少なくない。本来ならこうした設計変更で生じた追加工事分の費用は、そのまま発注者から受注者に支払われるべき費用と考えられるが、多くのケースで、当初工事の落札率を乗じて精算額とされているのが現状だ。

これは公共発注機関がそれぞれに運用する標準積算基準書に基づく措置だが、そもそも追加工事費の精算に落札率を適用する根拠はどこにあるのか。国土交通省が作成した「設計変更ガイドライン(案)」にも落札率の適用に関する事項はなく、その根拠が示す資料を探すのは難しい。

公共工事標準請負契約約款では、設計変更に伴う請負代金の変更は、発注者と受注者が協議して定めることになっている。従来、国交省の直轄工事では、総価で受注者と契約し、設計変更を伴う場合は工事数量総括表を基本として落札率を乗じる方法が取られてきた。

なぜこの方法が使われてきたのか。国交省OBの木下誠也日本大学生産工学部土木工学科教授は「当初契約が官積算よりも低い価格で行われているのに、設計変更増額分の工事が官積算相当だと会計検査院に説明できないと考えられていたため」と説明する。しかし、これでは受発注者間の見解に相違が生じやすく、変更協議が難航することも多かった。

□対応まちまち□
現在、国交省発注の土木工事に原則適用されている総価契約単価合意方式では、価格合意書に記載がなく、施工体制が変わるような新たに追加される工種(新規工種)には落札率を乗じないことになっている。だが、地方自治体など発注者によって対応はまちまちで、「単価合意もせずに落札率を掛けている発注者もいれば、新規工種にも落札率を掛けている発注者もいる」(建設業者)という。  追加工事費の精算に落札率を適用することについて、国際建設プロジェクトマネジメントが専門の草柳俊二高知工科大学社会システムマネジメント研究センター長(特任教授)は「契約的な位置付けはない」とした上で、「予定価格は国の工事であれば会計法を根拠に定めるものだが、公共工事標準請負契約約款には官積算に関する条項はなく、契約上の拘束力はないと解釈できる」と指摘する。つまり、官積算に基づく予定価格を使って算出される落札率も同様に契約上の拘束力を持つものではないというのだ。

□ダンピングのツケ□
一方、発注者側には別の意見もある。総価契約単価合意方式を導入していないある発注機関の建築積算担当者は「工事費を減額変更するケースにも落札率は適用される。受発注者の間でそれぞれ応分のリスク負担をしている」と指摘する。

建設投資の増加で建設会社の仕事の量は数年前に比べて増えているものの、各社は利益向上になかなかつながらないという悩みを抱える。追加工事費が落札率を乗じることなく精算されれば利益は上向くが、業界内にも「追加工事費に落札率を掛けられるのは困るが、ダンピング受注をしてきた業界側にも責任がある」(ゼネコン役員)といった声がある。

だが、契約上の位置付けが曖昧なまま追加工事費に落札率を乗じる精算方法が広まっているとすれば改善の余地はありそうだ。適正利潤の確保には、生産性の向上といった自助努力に加え、改正公共工事品確法の趣旨を契約面で明文化することも重要になる。

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