2016/07/15 国交省/民間工事の品質確保へ指針策定/12項目のリスク事前協議を

【建設工業新聞 7月 15日 1面記事掲載】

国土交通省は、民間建設工事の適正な品質を確保するための指針(民間工事指針)を策定した。中央建設業審議会(中建審、国交相の諮問機関)と社会資本整備審議会(社整審、同)合同の基本問題小委員会(大森文彦委員長)が行った民間建設工事の請負契約の適正化に関する議論を踏まえ、工事の請負契約に先立ち、施工上のリスクになると考えられる「地中」「設計」「資材」「周辺環境」「天災」「その他」を柱とする12項目を列挙。受発注者で情報を共有し、事前協議することを促している。

14日付で土地・建設産業局の不動産業課、建設業課の両課長名で関係団体に通知した。リスク協議の基本的な枠組みを提示することで施工を円滑化し、消費者が安心して住宅購入や施設利用を行えるようにする。

指針の主な対象は、マンションや建て売り住宅、ビルなど不動産会社が施主となって建設する民間工事。請負契約前の調査を重視し、必要な情報提供や関係者間の協力体制の構築を求めた。

請負契約に当たって事前協議する12項目として、▽支持地盤深度▽地下水位▽地下埋設物▽土壌汚染▽設計図書との調整▽設計間の整合▽資材納入▽近隣対応▽騒音・震動▽日照阻害等▽地震、台風等▽法定手続き-を列挙。中でも地中と設計に関連した事前協議は施工上のリスク回避に有効だとして、事前の情報共有とリスク負担の考え方の協議を求めている。

例えば、支持地盤深度については、地盤状況を発注者がボーリングなどで調査した上で、設計者が杭長の設計などを適切に行うとしている。ただ、請負契約を締結する時点で想定できなかった施工上のリスクが出てくる可能性もあることから、構造の再計算や構造変更などに伴う追加費用や工期延長の負担について、あらかじめ受発注者間で協議するとしている。

指針の通知先は、不動産業界が不動産協会(不動協)、全国住宅産業協会(全住協)、住宅生産団体連合会(住団連)の3団体。建設業界が登録105団体。

□業界歓迎/日建連は対応方針策定へ□

国土交通省が民間工事の品質確保で指針を策定したことについて、建設業団体からは歓迎の声が上がった。全国建設業協会(全建)は、中央建設業審議会と社会資本整備審議会の基本問題小委員会が議論を開始した当初から、民間工事契約の適正化を求めており、指針を会員企業に広く周知する。日本建設業連合会(日建連)は「極めて意義深い」との中村満義会長のコメントを14日発表。民間工事契約の一層の適正化に向けて、施工者としての対応方針の策定に乗りだした。

民間工事では費用や仕様、工期などについて受発注者間の取り決めがあいまいでトラブルが生じたり、一方が不利になる契約事項があったりする問題が指摘されてきた。全建は、基本問題小委が1月27日に開いた会合で岩田圭剛副会長が「民間工事の発注者責任の整理」を求めて以降、契約ルールの整備を継続して要望してきた。全建は今月20日の理事会で指針を説明し、会員企業への周知を急ぐ。

「不完全な事前協議が存在する中で、適正な契約を実現するための効果は大きい」。日建連のある幹部は指針にそう期待感を示す。対応方針の策定は建物の安全と品質を確保するのが狙い。民間建設工事標準請負契約約款、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款、日建連設計施工契約約款などに沿った契約条件の確保を促す措置を列記する。指針に基づき受発注者が共有したリスクへの対応については、標準約款に近い実務の実行などを打ち出す方向で検討を進める。

指針で示した協議項目と留意事項は次の通り。

【地中関連】

〈支持地盤の深度、軟弱地盤の圧密沈下〉工事請負契約の締結に先立ち、発注者、設計者、施工者が、支持地盤深度、不陸の状況等について設計図書や質問回答書等を通じて情報共有し、不明な点を明らかにしておくことが必要

〈地下水位〉地域によっては地下水位が季節により大きく変動することから、正確な位置を把握するための試掘調査が必要となる場合、こうした調査を請負契約に含めて実施するかどうかについて検討が必要

〈地下埋設物、埋蔵文化財〉地下埋設物の正確な位置を把握するためには、机上調査では限界があることから、試掘調査等が必要となる場合、こうした調査を工事請負契約に含めて実施するかどうかについて検討が必要

〈土壌汚染、産業廃棄物〉従前の土地利用状況や建築物等について、元の所有者や使用者等に確認するほか、適切な地歴調査の実施について検討が必要

【設計関連】

〈設計図書〉設計図書は、発注者が工事のために必要かつ十分な情報(仕様)を確定させた上で、受注者に示すことが基本だが、事業計画の事情等で十分な情報を確定させることができないままで設計を発注せざるを得ない場合、当初設計時点で不確定な部分がどの程度存在し、費用や工期にどのような影響を及ぼす可能性があるかについて、関係者間で共通認識を持つことが必要

〈設計間の整合〉やむを得ず調整が不十分な設計図書による業務を行わざるを得ないような場合、当初設計時点で施工上のリスクとなる可能性のある部分について事前に十分な検討を行い、関係者間で共通認識を持つことが必要

【資材関連】

〈資材納入〉災害発生等で調達が困難と想定される資材については、あらかじめ関係者間で情報共有を図ることが必要

【周辺環境】

〈近隣対応〉周辺状況等について関係者間で情報を共有し、円滑な事業の実施に努めることが必要

〈騒音・震動〉工事の施工や工法の選択に伴って発生する騒音や震動等の周辺環境に及ぼす影響について関係者間で情報共有することが必要

〈日照阻害、風害、電波障害〉周辺状況等や近隣建物との位置関係等について関係者間で情報を共有し、完成後の形状を含め円滑な事業の実施に努めることが必要

【天災】

〈地震、台風、洪水等〉不可抗力による損害については、民間建設工事標準請負契約約款、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款や公共工事標準請負契約約款等の関係条項や負担の考え方等も参考にして適切な負担方法を協議することが考えられる

【その他】

〈法定手続き〉各種手続きの進ちょく状況について関係者間で情報共有し、契約前に建築確認等が完了しない恐れがある場合、手続きの進捗状況や完了予定時期について書面での明記等を検討。

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