2016/10/17 2016提言特集/建設産業のかたち・17/社保未加入対策ラストスパート

【建設工業新聞 10月 14日 8面記事掲載】

技能労働者の処遇改善と企業が適正に保険料を負担することで、担い手確保と公平な競争環境を実現しようと、12年度に本格始動した建設業の社会保険未加入対策。国土交通省は「17年度をめどに建設業許可業者単位で100%、労働者単位で製造業並み(90%)」とする目標を掲げ、さまざまな加入促進策を打ち出してきた。目標達成の期限まで半年を切り、官民を挙げた未加入対策が正念場を迎えている。

国交省がまとめた15年10月の公共事業労務費調査によると、3保険(雇用・健康・厚生年金)の加入率は企業単位で95・6%(11年10月調査84・1%)、労働者単位で72・0%(56・7%)と着実に上昇している。だが、2次以下の下請や都市部の加入率は依然低いのが実情だ。

国交省と84の関係団体が参画する「社会保険未加入対策推進協議会」(会長・蟹澤宏剛芝浦工大教授)。5月20日に開かれた第6回会合で、蟹澤会長は「一番難しいところに手を付けないとこの先の浸透は難しい」と指摘し、加入率の低い2次以下の取り組みを柱とする未加入対策を講じることを申し合わせた。

国交省は現在、社会保険加入に必要な法定福利費を確保する取り組みを強力に推し進めている。法定福利費を内訳明示した見積書(標準見積書)の活用を徹底するため、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」を7月に改定。標準見積書を建設業法に規定する見積もりと位置付けた上で、その提出を従来の元請・1次下請間と同様、1次・2次下請間でも見積もり条件として明示した。1次下請業者には雇用する労働者や2次下請業者の法定福利費を確保することも盛り込んだ。

標準見積書の活用を目的とする立ち入り検査を始めた。主に民間工事を対象に全国10ブロックすべてで実施する。国交省が社会保険に特化した立ち入り検査を行うのは初めて。地方整備局の担当者からは「一過性ではなく次年度以降も継続すべき」との声も出ている。下請業者、労働者に法定福利費を行き渡らせることで加入促進につなげるのが狙いだ。

全国社会保険労務士会連合会と連携し、相談体制の充実や周知・啓発を徹底する取り組みも進んでいる。国交省の担当者が社会保険未加入対策について説明して回る「全国キャラバン」。全国10ブロックで開催する説明会で、16年度の新たな取り組みとして社労士による無料の個別相談会も開かれている。

7月には建設会社向けの無料相談窓口がすべての都道府県の社労士会に設置され、相談内容に応じて選任された社労士が対応する体制を整えた。建設業者が開く安全大会などで社労士の講演や個別相談を実施するなど、未加入企業が相談しやすい環境を進めている。

国交省は社会保険未加入対策の一環として、14年8月に社会保険に加入していない元請業者を、15年8月には未加入のすべての1次下請業者を直轄工事から排除した。この措置をさらに拡大し、2次以下の未加入業者への対策として17年4月から適用することを検討している。

未加入業者の排除を自治体発注工事にも広げるため、国交、総務両省は6月に都道府県と政令市に社会保険未加入対策の強化を要請した。定期の競争参加資格審査などを通じて未加入の元請業者を発注工事の入札から排除。許可行政庁や社会保険担当部局への通報などにより、未加入の1次下請業者も発注工事から排除するよう求めている。

17年8月の本格運用を予定している「建設キャリアアップシステム」も注目される施策の一つ。技能者の資格や就労実績を統一ルールで蓄積するシステムで、労働者単位での加入状況を確実に把握できるようになり、未加入対策としての効果も期待されている。

目標達成の期限が半年後に迫る中、国交省は元請業者の指導責任の強化や、未加入の許可業者の「見える化」など17年度以降の強化策を検討中。ある幹部は「最後はお目こぼしがあるということは決してない。強い決意で臨みたい」と話し、今後も社会保険未加入対策の手綱を緩めない方針だ。

《社保未加入対策の主な取り組み》

【2012年】
3月 中央建設業審議会が「建設産業における社会保険加入の徹底」について提言
「実施後5年(2017年度)をめどに加入率を企業単位で100%、労働者単位で製造業相当(90%)」に向け取り組みスタート
4月 国交省が必要な法定福利費を予定価格に反映
日建連が「社会保険加入促進計画」決定
5月 建設業関連、学識経験者、行政(国交省、厚労省)で構成する「社会保険未加入対策推進協議会」が発足
7月 国交省が経営事項審査で未加入の減点幅を拡大
9月 全建が「社会保険加入促進計画」を決定
11月 国交省が「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」を施行。施工体制台帳に加入状況の記載など
国交省が建設業許可や経営事項審査の申請時や立ち入り検査時に加入状況を確認・指導

【2013年】
4月 日建連が「技能労働者の適正な賃金の確保」を会員企業に要請
7月 日建連が「適切な労務賃金の支払に関する説明会」(社会保険に関する説明)を実施
9月 国交省が法定福利費を内訳明示した見積書(標準見積書)の一斉活用を開始
10月 日建連がリーフレット「労務賃金改善等の推進に関するお願い」を作成し、民間発注者に対応要請

【2014年】
8月 国交省が直轄工事の入札で未加入の元請企業を排除
国交省が下請金額3000万円(建築一式4500万円)以上の直轄工事で未加入の1次下請企業との契約を原則禁止

【2015年】
1月 日建連が「社会保険加入促進要綱」決定
2月 全建が「将来の地域建設産業の担い手確保・育成のための行動指針」決定
3月 日建連が「社会保険の加入促進に関する実施要領」決定
全建が都道府県建設業協会の担当者で構成する「社会保険加入促進計画推進実務者会議」の初会合開く
4月 国交省が下請指導ガイドラインを改定。元請業者から1次下請業者に対する見積もり条件に標準見積書の提出を明示
8月 国交省がすべての直轄工事で未加入の1次下請業者を排除
11月 全建が「社会保険加入促進に向けた取組指針」、「全建の社会保険加入促進Q&A」を決定

【2016年】
6月 国交、総務両省が地方自治体に未加入対策の強化を要請。未加入の元請・1次下請業者排除など
国交省が標準見積書の活用状況に関する立ち入り検査に向け調査開始
7月 国交省が下請指導ガイドラインを改定。1次下請業者から2次下請業者に対する見積もり条件に標準見積書の提出を明示
国交省が未加入の作業員が現場入場できる「特段の理由」を明確化
国交省と全国社会保険労務士会連合会が各都道府県の社会保険労務士会に建設会社向けの無料相談窓口を開設
9月 日建連が「社会保険未加入対策の一層の強化」を決定し、要綱と実施要領を改正

【2017年】
4月以降 国交省が元請業者から下請業者に対する指導責任を強化(検討中)
国交省が直轄工事で未加入の2次下請業者を排除(検討中)
国交省が「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」に企業ごとの加入状況情報を追加(準備が整い次第)。

日刊建設工業新聞の購読申し込みは、こちら

戻る