2023/01/26 創刊95周年インタビュー/日本建設業連合会・宮本洋一会長

【建設工業新聞  1月 26日 10面記事掲載】

◇担い手確保へ新4K産業に
安心・安全で持続可能なより良い「国のかたち」を実現するため、建設産業が果たしていく役割は大きい。10月に創刊95周年を迎える日刊建設工業新聞は今年、「国のかたちを考える-建設産業が描く未来ビジョン-」と題したキャンペーンを展開する。その一環で日経CNBCの番組などにレギュラー出演している経済キャスター・曽根純恵さんがインタビュアーとなり、主要建設団体の首脳らに迫るインタビューシリーズを掲載していく。第1回は日本建設業連合会(日建連)の宮本洋一会長に登場していただいた。
□想定外リスクを反映した契約に□

--日本経済が長年にわたり停滞している中で、建設産業の経営環境はどう変化してきているのでしょうか。
「昨年はロシアによるウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策など、世界中に大きな影響を及ぼす事態が相次ぎました。建設業にとっても海外から資材を調達するのが難しくなり、(建設資材)価格も1年半前に比べ2~3割程度上昇し、大きな痛手となりました。政府には適切な価格転嫁の施策に注力していただいているものの、思うように進んでいないのが現状です。建設業の仕事は契約締結後から実際に着工するまで一定のリードタイムが生じます。その間に値上がりすると非常に困ることになります」

--主要ゼネコンの2022年4~9月期決算を見ると、確かに利益率が低下しているようです。
「建設市場は今、安定した需要があるのにもかかわらず、多くの会社で利益という質的なものが悪くなっています。資材価格が変動した場合、公共工事が中心の土木では標準請負契約約款で定められたスライド条項を適用していただいています。一方で民間工事は国の中央建設業審議会(中建審)で決めた民間の契約約款がありますが、実際の契約に反映されていないケースもかなり見られます」

--民間発注者に適切な対応を促す仕組みが必要なのでしょうか。
「民間工事は総価契約を採用しています。このため発注者には資材価格などが契約期間中に高くなろうが安くなろうが関係ないという考えがあります。今回のような急激な価格高騰に対しては、発注者と受注者がウィン・ウィンの関係の中で、適切なリスク分担を行うことが重要です。民間契約の在り方を国に議論してほしいとお願いしてきた結果、国土交通省が『持続可能な建設業に向けた環境整備検討会』を昨年立ち上げていただいたのは大変ありがたいことです」

--価格転嫁の動きは着実に進み出しているのですね。
「日建連は昨年4月に業界共通の資料として価格高騰の現状を整理したパンフレットを作成し、会員各社が発注者に対し価格転嫁への理解を求めています。現時点で大きく変わったということはないのですが、少しずつ相談に乗っていただいているとも聞いています。まだまだ道半ばの状況です。高騰する資材価格などのコスト上昇分を、資材納入業者や協力会社に適正な支払いを進めるためにも適切なリスク分担が不可欠です」
□大切なのは強靱化事業継続□

--「新しい資本主義」を掲げる岸田政権は、経済政策で賃上げに最も力を入れて取り組んでいます。
「私が入社した約50年前、職人さんや親方は今と比べものにならないほど稼いでいました。仕事が終わるとよく声を掛けてもらい食事に連れて行ってもらったものです。ところが現在、日本全体の賃金は世界でも極めて低い水準にあります。働いている人たちが我慢することで日本経済は持ちこたえている状況です。まずは国が賃上げの環境をつくることが重要だと考えます」
「建設業界では現在、多くの団体や国交省などが連携し、技能者の能力や保有資格などを見える化する建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及に努めています。これは技能者の適切な評価に基づく賃金の支払いにもつながるものです」

--政府は公共事業の入札で賃上げ表明企業を優遇する取り組みも進めています。
「日建連の会員企業で見ると、売り上げに占める公共工事の比率は2割程度です。その受注のために会社全体で賃上げをするというのは大変なことです。賃上げという趣旨は賛同できますが、賃上げを実現できなかったら減点するといった制度の運用には見直しが必要ではないでしょうか」

--公共分野は国土強靱化も進められており、底堅い需要が期待できるのではないでしょうか。
「大雨や台風、地震などによる自然災害が毎年のように各地で発生しています。インフラの老朽化による事故も増加傾向です。大切なのは強靱化のための事業を継続していくことです。政府には『防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策』の後継となる、事業費やスケジュールなどを示した新たな中長期の事業計画を策定することに期待しています」
□4週8閉所の実現を目指して□

--最近の若者は就職先を考える際、休みが多いことを最も重視しているとも聞きます。

「今は週休2日が当たり前の世の中です。建設現場も若い人が働きやすくするために最低限土日を休みにして、その上で有給休暇もきちんと取得できるようにする。そのためには発注者の理解も不可欠で、十分な工期を確保する必要があります。特に民間発注者の理解が欠かせません。日建連は自前で開発した、週休2日を前提に建築工事の工期が自動算出できる『建築工事適正工期算定プログラム』の活用を呼び掛けるなど、4週8閉所の実現を目指して取り組んでいます」

--建設現場でAIやロボットといった最先端の技術はどのような効果を発揮するのでしょうか。
「現在の技術では、例えばのり面の整形も機械にGPS(衛星利用測位システム)の情報を入力するだけで可能となっています。インフラのメンテナンスでは、近くから目視で行っていた構造物の点検をドローンで行えるようになっています。建築工事で資機材などを高層階に運ぶようなロボットも実用化されています」
「24年4月に時間外労働の罰則付き上限規制が建設業に適用されます。こうした規制に対応するため、ICTを含めたさまざまな先端技術も活用し、労働時間を短縮していくことが必要です。人でなければ難しい細かな作業も機械やロボットで行えるようにすることが、これからの課題の一つです。新技術の開発に取り組む企業が幅広く公共発注機関の入札に参加できるよう、日建連として東京大学と共に建設産業全体の協調領域について標準システムの構築に取り組んでいます。国交省にも仕様の共通化などの対応をお願いしています」
□すべての人が気持ち良く働き続けられる環境を□

--女性活躍推進に向けたけんせつ小町の活動について教えて下さい。

「建設業で働く女性の愛称がけんせつ小町です。その活動はさまざまで、現場で女性が働きやすくすることを考え、まずは女性専用のロッカーやトイレを設置するなどしてきています。近年はダイバーシティー(多様性)を尊重する考え方も広がっています。日建連は昨年11月に『ちゃく、ちゃく』という新たなキャッチコピーを決め、男性も含め建設業で働くすべての人たちが気持ち良く働き続けられる環境整備を着々と進めていきます」

--建設産業の未来を担う若い人たちへのメッセージをお願いします。
「建設産業は人の生活基盤や産業基盤をつくり維持管理して守り、またつくり直していく大事な仕事です。今後もそうした役割を果たしていく産業としてなくなることはありえません。ただそういった仕事を続けていくためには、将来にわたり現場で働いていただく技能者を確保していく必要があります。働く環境は他の業界と遜色なく、休みも取れて十分な給料も稼げる。こういった建設業の新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)への変革を言葉だけでなく実現していきます。曽根さんにはぜひ出演されている番組でも建設産業への応援をお願いします」。
〈聞き手〉
キャスター・曽根純恵(そね・すみえ)さん
中央大学経済学部国際経済学科卒。2001~09年TBSニュースバード(現TBS NEWS)でキャスターを務める。09年4月から日経CNBCに出演。神奈川県出身。

日刊建設工業新聞の購読申し込みは、こちら

戻る