2023/09/29 インボイス制度10月スタート、業界挙げた対応急務/一人親方の不安解消へ

【建設工業新聞  9月 29日 1面記事掲載】

消費税の仕入税額控除の新方式「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が10月にスタートする。今後は納税義務が原則免除される「免税事業者」との取引で控除を行えなくなり、一人親方を中心に免税事業者が多い建設業界にも大きな影響を与える。取引関係にある課税、免税事業者間で税負担の在り方を決める必要があるが、どのような判断が適切か見極めが難しい面もある。これを機に一人親方の廃業が増える懸念もあり、業界を挙げて働き手に寄り添った対応が求められていると言えそうだ。

「免税事業者の一人親方の登録はあまり進んでいないのではないか」。ある業界関係者は一人親方と多く接する中での個人的な感覚と断った上で、インボイス発行事業者の登録状況をこう推測する。国税庁によると、免税事業者の登録申請は7月末までに92万者と推計。業界内で実際にどの程度、登録が進展しているかは統計上の判断材料が少なく不透明だ。

制度導入で免税事業者はインボイスを発行できる課税事業者に転換するかどうか判断を迫られている。課税事業者に転換すれば新たな税負担が生じ、免税事業者のままでいれば控除できない消費税分を誰かが負担しなければならなくなる。

さまざまな職種から寄せられる不安の声を受け、政府は制度導入後の激変緩和措置を以前より拡充。免税事業者からの仕入れで今後3年は8割、それ以降の3年も5割の税額控除を可能とし、免税事業者が課税事業者に転換した場合の納税額を売り上げ税額の2割に軽減する3年間の時限措置を講じる。

先の業界関係者は免税事業者と取引する企業の立場から「10月以降、実際の取引価格にどう影響してくるか。まずは様子を見てから対応を判断する会社もあるだろう」とみる。

建築大工や内装工事を手掛ける一人親方に支えられている住宅分野では危機意識が強く、ハウスメーカーなどで構成する住宅生産団体連合会(住団連)は元請事業者としての行動指針を5月に策定した=表参照。

課税事業者への転換による収入減や煩雑な経理処理など負担増を苦にして「特に高齢の職人の中には、仕事を辞めようかという声もあると会員企業から聞かれるようになった」(住団連担当者)という。指針に基づき会員各社で一人親方への発注主体となる下請業者向けの勉強会や、相談窓口の設置を推進。引き続き団体として制度内容の理解醸成や好事例の発信に取り組み、各社の適切な対応につなげたい考えだ。


□インボイス制度に関する住団連の取り組み指針

元請事業者(課税事業者)は、取引事業者(免税事業者)に対し、

①インボイス発行事業者登録に関しては協力の依頼のみとし、登録するかしないかは取引先の判断に任せ、強要はしない

②登録を行わないことを理由に、発注者としての優越的立場を利用し取引先と交渉・相談することなく、消費税相当額の一部または全部を支払わない行為、または発注取りやめをしない

③取引先からの登録に関する相談には真摯(しんし)に対応し、必要に応じて専門家を紹介するなどサポートを行う

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