2025/06/09 商習慣を変える-改正建設業法・1/請負契約の原則超えた対応を

【建設工業新聞 06月 09日 1面記事掲載】

◇標準労務費活用、企業の力量問われる

今、働き手の処遇を良くして担い手確保につなげなければ、建設業の未来はない--。昨年成立の改正建設業法で規定された「労務費に関する基準(標準労務費)」は、官民の業界関係者が抱く危機感の産物だ。12月までの運用開始に向け、中央建設業審議会(中建審)のワーキンググループ(WG)で制度内容を具体化する議論が続く。新たなルールを現場レベルで受け止め、商習慣を変えていく覚悟が問われる。

標準労務費を個々の契約で担保し、末端の技能者まで賃金として行き渡らせる実効性確保策の方向性を3日のWGで合意した。建設業に関係する幅広い立場で行動変容が要求される各施策の具体化にはさらに踏み込んだ議論が必要だ。

「これまでの請負契約の延長線上で考えていては答えは出てこない」。国土交通省の平田研不動産・建設経済局長は、標準労務費を根付かせる難しさを端的に示す。改正業法は標準労務費をベースに、著しく低い労務費の見積もり・契約を禁じる。個別の事情を問わず労務費を必ず支払うルールが組み込まれたことに「(契約後は)受注者の裁量に委ねられる請負契約の原則を超えている」と指摘する。

現場レベルで商習慣を変えるための基本は、労務費を明示した見積もりの定着だ。従来とは価格決定の構図を反転させ、適正な労務費を下請次数の最下層から積み上げる。その際の「ものさし」として標準労務費を活用する。民間建築工事などで既存の商習慣を一気に変えるのは難しくとも「(元請が受注する際に)下請に支払う労務費をどれだけ意識し、施主と交渉できるか」が重要と説く。

労務費と異なり、請負契約の範囲に入らない「賃金」の行き渡り方策もWGで力点を置く。この部分は「今までの業行政に手段がなく、未体験ゾーン」と受け止める。重層的な請負構造を介し直接的に関与しない技能者の賃金にも、発注者や元請などの立場を超えて「手を伸ばし、注意を払うことが求められる」。さらに前向きな対応を期待し「現場での行き渡りに関心を持ち、何らかのコミットメントを考えてほしい」と訴える。

業界全体でのマインド転換も重要な観点だ。平田局長は「精神論だが」と断りつつ、「人を雇って賃金を支払う企業と取引してもらう環境にしていくことが大事だ」と話す。労務費・賃金支払いの情報開示を促す措置を講じ、処遇改善に取り組む企業の受注力を高める。賃金の支払い状況を業界全体で確認する枠組みづくりに「もう少し機運が出てくるといい」とも望む。

建設会社の目線に立つと新たなルールを規制と捉えがちだが、自らの事業活動に生かせる「武器」となる側面がある。あくまで労務費の「標準」「基準」と位置付け、実費精算を求めない点がポイント。「生産性向上の余地があり、企業としての力量が問われる」と強調する。労務費を切り下げない共通ルールの下、生産性を高めて競争で優位に立ち、利益も上げていける仕組みとの認識を広める。

半年後に迫る法施行に向け、制度内容を詰めながら周知と浸透に注力。制度開始後も実態と合わなければ柔軟に軌道修正する姿勢も示す。一方、新たなルールの根っこにある問題意識がぶれてはいけない。公共工事設計労務単価が上昇に転じてからも、その伸びに実質賃金が追い付いていない。標準労務費の導入に合わせ、抜本的な対策を講じる必要がある。

「商習慣を変えるのは難しい。しかし今、処遇を良くしないと建設業が持続できない。その危機感は少なくとも全体で持ってほしい」。

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